The 2 Monkeys のブーツ Sportif(スポルティフ)は、1920〜30年頃のフランスで、ハンティングやアウトドア活動で履かれたブーツをイメージしてデザインされたブーツです。とはいっても、実在する古いブーツを復刻したものではありません。当時、主にヨーロッパのブーツが持っていた様式を用いながら、同時期にアメリカで広まったモカシン型のつま先(*)デザインを取り入れたブーツなのです。
レザーは柔らかに足に馴染むフレンチカーフ。ブラックに丘染めされた革で、履くにつれて浮き出る茶芯が経年変化を際立たせます。
底周りには特に時代のテイストが盛り込まれています。踏みつけ部分をグッドイヤーウエルト製法、ウエストからヒールをマッケイ製法とすることで、ウエストを大きく絞り込んでベベル(**)したスペードソールのスタイルを再現しているのです。ソールを底から見ると、このウエストの絞り込み具合が良くわかります。
カカトの上下はS字のシェイプを描いています。柔らかな革が木型の形をしっかり再現し、小さめのヒールに付けられたピッチ(***)がそのカーブを際立たせています。曲線が靴の前後左右に組み合わせられ、ヨーロッパの伝統的な美意識に通ずる、優美なスタイルとなっています。
つま先には、馴染みの良い薄い革の先芯を入れています。履き込むにつれてつま先が平たく沈む経年変化が楽しめ、つま先まで革が馴染みます。
ソールの踏み付け部には3mm厚のラバーシートを張ってあります。ヒールのトップリフトはラバー製の10mmのものです。これらの接地面のラバーは、路面をしっかりグリップし滑りを防ぎ、ソールの擦り減りを軽減します。
履き心地は、あくまでも軽快で柔らか。レザーの特性や独自の製法に加え、反りの良いソール(シングルレザーソール)の組み合わせによるものです。ワークブーツに慣れた方に履いていただくと、軽さと、足を入れた瞬間から感じる馴染みの良さに驚いていただけるはずです。
ウィズにしてE相当のスポルティフの木型は、標準的な形の足にややゆったりフィットする設計ですが、細めの足の方でも靴紐を強めに締めて足にしっかりフィットさせることができます。革の柔らかさのおかげです。甲高幅広の足を持つ方は足長に比べてやや大きめのサイズを選んでいただいても、フィット感を大きく損なうことはありません。土踏まず部分でソール幅を絞り込んでいるため、足が柔らかな革に乗ることのメリットです。
優美なスタイルやエイジングの楽しさだけでなく、履き心地においても1920〜30年の革靴が持っていた良さを取り入れたのです。
19世紀末〜20世紀初頭、少なくない数のヨーロッパの靴の作り手が、量産の仕組みを学びにアメリカに渡りました。長い伝統を持つヨーロッパと、移民や経済発展による人口の急拡大に対応して、いち早く量産体制を整えたアメリカとが、靴づくりにおいても影響し合い、高め合ったのがこの時代です。
The 2 Monkeys のブーツ、スポルティフは、そんな時代のヨーロッパとアメリカに共通するブーツの在り方に倣った、アメリカンなスタイルにも、ヨーロピアンなテイストにも合う、たぐい稀なブーツです。
[脚注]
(*) モカシン型のつま先
モカシンとフランスには歴史的な縁があります。アメリカ合衆国が独立したばかりの18世紀後半、現在のアメリカ中西部はフランス領でした。北はミネソタ州から南はルイジアナ州まで、西はモンタナ、ワイオミング、コロラド州をまたがる内陸部の広大なエリアです。少なくない数のフランス人が、毛皮猟、貿易、そして宣教のためにここで活動しました。しかし、当時この地域は未開の地であり、先住民(アメリカンインディアン)の協力なしには足を踏み入れることはで不可能でした。フランス人達は、先住民と交流し、物々交換などをしながら生活をし、フランスから履いてきた靴をインディアンモカシンに履き替えたと言います。当時、フランス人は、モカシンを最も多く履いた白人だったかもしれません。このような歴史があるからか、今日でもフランスを代表する革靴メーカーが、その代表的モデルにモカシン縫いのつま先を採用しています。フランスとモカシンタイプの靴デザインには親和性があると言えます。
(**) ベベル
ウエスト部分の絞りを強調するために、グッドイヤー製法で底付けされたソールのウエスト部分のアウトステッチにウエルトとの革をかぶせて覆うことを「ベベル」と呼びます。現在でも時折、ビスポーク靴などに使われる手法です。スポルティフではこの「ベベルドウエスト」風のスタイルを、靴の後半分をマッケイ製法とする事で表現しています。
(***) ピッチを付けたヒール
ソールから設置面にかけて直線的にテーパーを加えたデザインのヒールです。当時のヨーロッパの靴に良く見られるディテールです。
(****) 履き心地において1920〜30年の革靴が持っていた良さ
1920〜30年代には、カンガルー革、山羊革(キッド)などの「柔らかな革の靴」が沢山ありました。その後の時代、スニーカーが普及するにつれて、革靴はビジネスに求められる形式美や、ワークやアウトドアで求められる頑丈さに特化し、その反面、柔らなものは減ってしまったようです。かつての柔らかな革の靴が持っていた快適な履き心地を持たせたスポルティフは、時代の中で失われた革靴のもう一つの良さを体感していただける靴となっています。